2011年11月5日土曜日


1X10A105 田中智 「Omoide in my head」A+++

4枚縦長の画面にやや見上げで描かれた自画像。物憂げな表情とも何かを決意したともとれる表情で、静かに変化を受け入れ自分の中で何かがコトリと動いたように見受けられる。表情だけで変化を表現しきった力作。色使い、構成共に他を抜きん出ていた。(間下)

1X10A027 梅野美咲 「神の一手」A++

腕を頬にあてて組んでいる女性。長い髪が束をなして垂れ下がる。垂れ下がり螺旋に捩りながら、植物のつるになり、葉になり、花へと変容する。女性の夢想の行く先が髪の先まで行き届いている柔らかな作品。前ラファリエット派的な甘美な変容世界を描き出した佳作である。
(入江)

 1X10A146 古川茉弥 「神鳴り」A++

ピアノ鍵盤を克明に描いている。音一つで世界がガラッと変化する瞬間というのは誰でも経験したことがあるのではないだろうか。それを曲という固有のものではなく、音という概念で表現している所が、この作品の優れた点であろう。(間下)
1X09A136 西本耀 「相対座標にて」
抽象的なタイトルから一転してセメントを水で溶いたような質感の顔料で染色されている。ろうけつ染めで抜いたような感じのパターンと更に表面に付着された凹凸が闇の中の影のような印象を与えていて、小惑星のようなミクロなスケールでの日食や月食を連想させる。(博多)
1X10A145 藤森慧 「有意識と無意識の隙間」
マスキングテープで仕切られたキャンパスに向かって、チューブから絵の具を直接塗りたくる。そうしてできた偶然の色のパレードの中、テープを剥がすと必然的に白い道のような隙間ができる。この白い空間が出題にある、客観的に観察した進化の表れなのだろうか。製作に時間はかかっていないように思われるが、出題からくるイメージを瞬時にとらえ、心に生まれた感覚を隙間と表現したところが成功をもたらした。(安東)
1X10A112 鉄川ななみ 「存在という現実」
渋谷のスクランブル交差点のような場所を描いている。一枚目にいた「自分達」が二枚目では影だけ残して消えてしまっている。姿は消しても影だけは残る存在のあり方について示唆を含んだ作品。もう少し書き込みがあると説得力が出たように思う。(間下)
 1X10A008 池尾恵理 「神の一手間」
「神の一手間」と改題した作品。生卵を割って、湯気をあげる炊きたてのご飯の上に見事におとした一連のシーンをまとめた。課題をこちら側に惹きつけて、食欲をそそる一瞬をセットした「神」がかった一手間として、丁寧に描いていて好感がもてる。(入江)
1X10A109 陳紹華 「スクイズ」
全神経を集中した形がシルエットとして切り抜かれていて、最後のインパクトに至る瞬間の確立をはなれたところにある、反射神経の無心の運動を感じ取ることができる。(博多)
1X10A166 向井ひなの「概」
どんよりとしたグレートーンの空気が漂い、寄り添った二人の姿が浮かび上がる。記念写真のように切り取られた構図の中で、肩を抱かれた女性(?)は、人間が進化した動物(猿??)にも見える。何か不思議な時間が流れている作品だが、フォーカスをぼやかした画面全体からはこの二人の信頼関係も伺える。見る人に暖かい気持ちを与える一方で、すべてから取り残された孤独感も同時にもたらす。(安東)

1X10A032 大崎名美映 「魅惑の赤」A+++
いっさいの誤解を許さない明確な赤の色彩が力強く訴えかけてくる完成度の高い作品である。脚の陰影とハイヒールの尖ったエッジや「つや」により赤の色彩のもつ官能的な鮮やかさが表現されている。(安東)
1X10A117 中島みづき 「灯」
冬の夜宴のいわゆる赤ちょうちんを描いたものであろう。人が入口扉に手をかけ引いた直後に、外もれする光の鋭さが、内部の温かさを伝えている。ちょうちんの赤色より、温もりの背後にある赤のもつ暖かさを表現したものだろう。表現力のある作品となっている。
(入江)

1X10A171 森田亮太 「rouge
唇の開閉によって生じる表面のうつり込みや質感の方に表現の軸があることで、鮮明な赤ではなく、淡い赤を表現することに成功している。お歯黒的な世界観の中にない、ある意味現代的な赤なのではないか。(博多)

1X10A145 藤森慧 「あ・うん」
仁王像、金剛像、寺社仏閣の山門両側に彫刻頭部を描いている。赤く朱に染められている実際よりも、邪気を払う気 と気迫の表情の本質を「赤」と捉えたのだろう。間を黒く潰した表現もよかった。(入江)

1X10A139 廣戸亮 「Deep
Deepと題された作品。めくりあげられてできた穴と、穴をつくっているめくりあげられ、折り重ねた部分の形状の関係が青ではない、赤を連想づける。課題が発せられた側に生み出される知覚状況への形象を投じたうまさを感ずる。滴りおちるイメージは追随できないとしてでもある。(入江)

1X10A010 石井宏樹 「Strawberry Syndrome
6枚組の図画を順にたどると、平面から立体、さらに空間へと対象物が変化しながらも、一貫して現れるイチゴのモチーフが赤の色彩を鮮明に表している。世の中にある赤いものすべてがイチゴに支配されてゆく様子に独特のストーリー性が認められる。最後の2枚組についてはもう少し時間をかけて丁寧なタッチで完成度を高めてほしかった。(安東)

1X10A182 吉岡侑希 「白黒」
ブラインドでサイレントな視点が、赤を色という単的な視覚から解散し、深い影をもった音の像として浮かび上がらせている。赤とは最も遠いところにある、表現方法であるが、確かにそこに赤の残像がある、そう感じさせてくれた作品である。(博多)
1X10A132 林万里亜 「寒い日に」
赤ちゃんのほっぺたと唇の赤を描いた作品。やわらかなタッチでピンクに近い赤を連想させる。観念的で終わってしまっているところもあるので、詳細な観察力がほしかった所。
(間下)

1X10A102 立野顕吾 「火の記憶」
火をつける前と火が消えた後を描いた作品。タイトルの通り見る人の記憶の中の火で赤を表現している。記憶を喚起させるスイッチが少し弱い所が残念。(間下)

1X10A134 原崇之 「白黒の世界/赤」
マッチの炎の照らし出す領域を、黒鉛の濃淡で描いた作品。濃淡は同時に、温度や揺らぎとなり、鑑賞者の色彩感覚に働きかける。炎に近づき、その様相を描ききった点をかいたい。(TA坂本)

1X10A039 沖津龍太郎 「prayer
僧侶の殉教をとらえた作品。燃え盛る火の中で微動だにしない姿に信仰の強さを感じる。静謐な信仰というよりも真っ赤に燃える信念と畏怖の念で見守る周囲がその火によって照らされている激しい赤を感じさせる作品。(間下)
1X10A179 山本浩夢 「Spread
白黒で表現される赤の可能性を一つの画的な情報ではなく映像としてつかまえようとしているところが評価される。しみの持つ形をガーゼという素材の中で抽象的なスクリーンとして表現されている為、その中での光学的な効果を際立たせている。(博多)
1X10A115 長尾健介 「余韻」
水の中に魚が泳いでいて、その動きが絵の具の付いた筆を水中で洗ったときにできる水の動きを思い起こさせる。そのときに赤い色がイメージされ、魚が水の中に漂い水面から時折顔をのぞかせたり沈んだりする様子が、水に溶けてゆく色の余韻を残している。全体のモノトーンの中にあって、遊泳する魚の独特の動きがもたらす印象が色彩的なアクセントとなっている。(安東
1X10A090 瀬尾憲司 「!」 
トウガラシが主題である。藁で結んで乾してあるトウガラシ。赤い色合いが眼に浮かんでくる。それをまともに食するということは普通ないが、実行した時の「キターッ」という感じがよく表現されている。「キターッ」という感覚は、不可視であるが深紅なのである。(入江)
第三課題「神の一手」 出題:間下奈津子

自らを天上より客観的に観察し、
超越した発見/操作を加えて変容/進化を
表現して下さい。

出題日:1019
提出日:1026
講評日:11月2日
提出物:275×275の平面 表紙+2枚以上

*表紙に作品のタイトルを付けて下さい。
*写真、プリンターの使用は不可とします。